GRACEセンター(先端ソフトウェア工学・国際研究センター)
「21世紀のソフトウェア基盤の実現に向け、国内外の研究機関と連携。産学連携の下、研究・教育・実践を三位一体で推進」

ソフトウェア工学の研究を行っている国内外の大学や研究機関、また30社以上の企業と連携し、世界トップレベルの先端ソフトウェア工学の研究、教育、実践を三位一体で推進しているのが、国立情報学研究所GRACEセンターである。同センターでは21世紀のソフトウェア基盤の実現に向け、次代の中核となる世界トップレベルの研究者および技術者の育成を行っている。

研究・教育・実践を三位一体で推進していくための連携ハブ拠点

今や自動車から家電製品、金融に至るまでありとあらゆるものがソフトウェアシステムによって制御されている。しかしその一方で、ソフトウェアシステムの不具合が続出し大きな社会問題になるなどソフトウェアシステムの持つ脆弱性が浮き彫りになってきている。しかも、開発すべきソフトウェアシステムは年々大規模化、複雑化、高度化、多様化の一途を辿っており、産業界では高品質で頑健なソフトウェアシステムを効率よく開発することが急務となっている。

GRACEセンター長
NIIアーキテクチャ科学研究系 研究主幹
NII社会産学連携活動推進本部長
本位田真一教授


一方、大学や研究機関では、論文発表を主眼とした先端的なソフトウェア工学の研究が中心で、研究成果を産業界へ還元、すなわち実践適用の視点に欠ける傾向がある。また、日本国内に限っていえば、巨大規模ソフトウェアシステムの安全性確保など先端的、基盤的な研究の不足が懸念されている。

さらに、教育機関においては、最新の研究成果がカリキュラムに反映されていない、実社会で役立つような実践的な教育内容になっていないという問題も指摘されている。

「これまで産業界、研究機関、教育機関がそれぞれバラバラに活動してきたため、3者の間に大きなギャップが生じています。ソフトウェアシステム開発における課題を解決するためには、研究・教育・実践が三位一体となって取り組んでいく必要があります。そのための連携ハブ拠点として文部科学省の指導の下、2008年4月に創設されたのがGRACEセンターです」と本位田真一GRACEセンター長は設立経緯を説明する。

国際的研究機関との連携拠点、産学連携拠点、人材育成拠点として機能

このようなミッションの下、現在、GRACEセンターでは、グランドチャレンジテーマとして、「高信頼性で進化可能なソフトウェアシステムの構築」をゴールに設定し、国内外の大学や研究機関の先端的なソフトウェア工学における研究成果の産業界への反映、また、世界トップレベルの研究者やソフトウェア技術者の育成に向け、活動を推進している。

では、具体的な活動内容を紹介していこう。

まず、大学や研究機関との国際的な連携拠点として、現在、米国や仏国、英国、豪州、中国、韓国などソフトウェア工学の最先端の研究を行う海外の大学や研究機関と連携。科学的なアプローチに基づく、実践的な手法やツールの研究開発を行っており、研究成果を世界に向けて広く発信している。

現在、11個の国際共同研究プロジェクトが立ち上がっており、グランドチャレンジテーマの実現に向け、研究活動を行っている。2009年度には40本の論文が発表されているほか合計46回に及ぶGRACEセンター主催のセミナーや国際シンポジウム、国際ワークショップも開催されている。

「これまで海外の研究機関との共同研究というと、多くの場合1対1であり、その活動範囲がどうしても限定せざるをえませんでした。私たちは、本センターの国際連携の特徴はグループでの活動にあると考えており、複数機関との連携を推進しています。点と点による線の連携ではなく面の連携を行うことで、より多くの成果が期待できます。また、単なる連携ではなく、国内外の各大学にGRACEセンターの研究拠点を設置し、グランドチャレンジという1つの大きなテーマに取り組み、定期的に研究成果を発表し合うことで、シナジーが高まると考えています。これにより、世界トップクラスのソフトウェア技術者、研究者をより多く輩出していくことができると考えています」(本位田センター長)

また、産学連携拠点として、現在、30社以上の企業と連携。最先端の研究成果を活用しビジネス上の課題を解決する”課題解決型共同研究”を推進している。

さらに、人材育成拠点として、先端的技術と現場における事例を連携させる教育の実践に取り組んでいる。GRACEセンターが目指すのは、現場の課題を先端的な理論で解決できる「トップエスイー」と、最先端のソフトウェア工学ツール開発や研究理論の構築ができる「トップリサーチャー」の育成だ。

3月より拠点間ポータルサイト「edubase(エデュベース)」を 公開しています(本位田センター長)

「企業の方々には各種研究プロジェクトに参加していただいているほか、サイエンスによる知的ものづくり教育を標榜する『トップエスイープロジェクト』に、受講生あるいは講師として参加していただいています。同プロジェクトで使う教科書も企業の方々と一緒に作成しており、企業が現在、抱えている問題などをベースに作成することで、より実践的な内容にしています」(本位田センター長)

『トップエスイープロジェクト』とは、30代前後の社会人を対象とした修了期間1年間の教育プログラムで、協賛企業からの派遣により、年間約30人が受講している。ソフトウェア開発現場に最新の研究成果を導入すると同時に、大学教育の現場に実践を導入することを狙っている。単なる座学ではなく、実社会への適用まで行うのが大きな特徴である。教育内容は時代のニーズに応じて変化させる必要がある。そのため、企業からの要望に応じて新講座を用意するなど柔軟に対応していく計画だ。

一方、トップリサーチャーの育成に向けては、大学院教育として文部科学省の「先導的ITスペシャリスト育成推進プログラム」を推進している。現在36大学が参加。8拠点に分かれ、教材の整備やガイドラインの策定、合同シンポジウムの開催などを行っている。

同プログラムにおいて、特に注目すべきが、2010年3月より公開している拠点間ポータルサイト「edubase(エデュベース)」である。これは同プログラムの一環として各大学で行っているソフトウェア科学、ソフトウェア工学に関する90分間の授業を、動画でインターネットを通して視聴できるというもの。ユーザー登録を行うだけで、誰でも無料で閲覧することができる。このサイトのユニークな特徴は”シンクロコンテンツ”だ。動画と授業で使われている資料のスライドが同期(シンクロ)しているため、スライドを基に視聴したい箇所にピンポイントでアクセスし再生することができる。

今後3年間ではアジアの研究拠点を強化

2008年4月の設立以来2年が経過し、2010年3月に第1期が無事終了したGRACEセンター。研究論文数や連携大学数、協賛企業数など2年間の活動内容が評価され、2010年4月からは、新たに第2期が3カ年計画でスタートしている。

第2期ではグランドチャレンジテーマのさらなる実現に向け、特に中国、韓国などアジア研究拠点を強化していく計画だ。北京大学や上海大学など各大学内にGRACEの分室を作り、定期的にワークショップや研究会を開催するなど、アジアパワーを結集させるべく密接なコラボレーションを推進していく。

本位田真一教授より
GRACEセンターではトップクラスの人材養成を主眼としております。ピラミッド構造においては、トップを引き上げることが、ピラミッド全体の引き上げる上でより有効的であると考えるからです。グランドチャレンジテーマの実現に向け、1つの課題を深く貪欲に追求しつつ、フレキシブルな観点からものごとを見ることのできるような30代前後の研究者、技術者を広く募集します。

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